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ティラノサウルス
ティラノサウルス(Tyrannosaurus)は、約6,800万- 約6,500万年前(中生代白亜紀末期〈マーストリヒト期〉)の北アメリカ大陸に生息していた肉食恐竜。 大型獣脚類の一属である。 他に「ティランノサウルス」「チラノサウルス」など数多くある呼称については第一項にて詳しく述べる。
現在知られている限りで史上最大級の肉食恐竜の一つに数えられる。 恐竜時代の最末期を生物種として約300万年生きたが、中生代を終わらせた大絶滅によって最期を迎えている。
恐竜の代名詞と言えるほど有名な存在で、『ジュラシック・パーク』等の恐竜をテーマにした各種の創作作品においては、脅威の象徴、あるいは最強の恐竜として描かれ、高い人気を誇っている。
呼称
Tyrannosaurus という名称は特に断りのない場合は属名を指す。 Tyrannosaurus 属の種として広く認められているのは現在のところ rex のみであり、正しく二名法で表記された学名 Tyrannosaurus rex が近年のポピュラー・カルチャーで多用されたことから、著名な恐竜としては例外的に属名と種小名を併せた名称が一般に浸透している。 また、学名の略記である T. rex にちなみ、英語や日本語では「T・レックス(ティー・レックス)」とも言う。
属名 Tyrannosaurus は、ギリシア語の「τ?ραννο? (tyrannos =tyrant、僭主)」と (sauros =lizard、蜥蜴〈とかげ〉)」を直接的語源とするラテン語による合成語で、「僭主の蜥蜴」との原義を持つ。 しかし、τ?ραννο? からは後世、否定的な面が強調された「暴君」の意が、σαυρο? からは博物学的な「爬虫類」の意が生じており、これらを受けて Tyrannosaurus には「暴君のごとく怖ろしい爬虫類」との命名意図がある。 日本では「暴君竜」と漢訳されており、以前ほど盛んではないものの現在も用いられている。 中国語では「暴龍」、もしくは「覇王龍」という。 古典ラテン語本来の発音を日本語転写すれば「テュランノサウルス」である。 種小名 rex は、ラテン語の「rex (=king、王)」から来ている。 本来の音は「レークス」であるが、生物学の慣習として長音は省略され、「レクス」となる。
日本語は揺らぎの大きな言語であり、「チラノザウルス」や「チランノザウルス」に代表されるように昔からいくつもの読み方があった。 現在用いられているのは、最も一般的な「ティラノサウルス」のほか、「ティランノサウルス」、原音に近い「テュランノサウルス」、そして古典的な「チラノサウルス」「チランノサウルス」である。 種小名の音訳は英語風の「レックス」が浸透している。
英語音を日本語転写すれば「ティラノソーラス・レックス」であろう。 また、英語化された語形 Tyrannosaurであれば、通常的に「ティラノソー」もしくは「タイラノソー」と音訳される。

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特徴
骨格標本から推定される成体の体長は約11〜13mで、その体重は概ね5〜6tと推測されている(体重に関しては異説も多い)。 発見されているティラノサウルスの化石はそれほど多くはなく、2001年の時点では20体程度であり、そのうち完全なものは3体のみである。
ティラノサウルスの上下の顎には鋭い歯が多数並んでいるが、他の肉食恐竜と比べると大きい上に分厚く、最大で18cm以上にも達する。 また、餌食となったとみられる恐竜の骨の多くが噛み砕かれていたことから驚異的な咬合力を持っていたと考えられ、その力は少なくとも3t、最大8tに達したと推定される。 これらの事実から、ヴェロキラプトルのような小・中型獣脚類が爪を武器として用いていたのとは対照的に、ティラノサウルスは強大な顎と歯のみを武器として使用していたと考えられている。
体の大きさに比して前肢は異常に小さく、指が2本あるのみで、用途は未だにはっきりとしていない。 ただし、その大きさのわりにはかなり大きな力を出せたことがわかってきている。 逆に頭部は非常に大きく、それを前肢の代わりに上手く活かしていたのではないかと考えられている。 また、進化の過程で体の前方が重くなったため、前肢を短く軽くすることでバランスを取ったとする見解もある。
ティラノサウルスとその類縁種(ティラノサウルス上科)は、脚の速いオルニトミモサウルス類(ダチョウに似た恐竜群)と共通の特徴であるアークトメタターサルを有していた。 アークトメタターサルとは、第三中足骨が、第二、第四中足骨によって挟み込まれ、上端が押しつぶされる形態のことを指す(メタターサル〈metatarsal〉は中足骨のこと)。 近年の研究によると、第三指骨および中足骨に負荷が加わると靭帯の働きにより第二、第四中足骨が中央にまとめられ、負荷の方向を一直線にすることで俊敏性を増すのに役立っていたと考えられている。 また靭帯の損傷も防げたのではないかと推測される。 このアークトメタターサルはオルニトミモサウルス類との共通先祖から受け継いだ形質と思われていたが、それを持たないティラノサウルスの先祖種の発見から現在では収斂進化によるものとされている。

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発見と研究の歴史
1892年、アメリカの古生物学者エドワード・ドリンカー・コープは後にティラノサウルスのものと同一視される脊椎の一部を発見し、マノスポンディルス・ギガス(Manospondylus gigas)と名付けた。 2つ目の化石は1900年にワイオミング州でアメリカ自然史博物館の学芸員であったバーナム・ブラウンによって発見された。 この標本はコープに師事していたヘンリー・フェアフィールド・オズボーンによって1905年にディナモサウルス・インペリオスス(Dynamosaurus imperiosus)と名付けられた。 三つ目の化石も1902年にブラウンによってモンタナ州で発見され、オズボーンによりティラノサウルス・レックスとして記載された。 ディナモサウルスとティラノサウルスはオズボーンが1905年に発表した同じ論文の中で記載・命名されている。 翌1906年にオズボーンは両者が実は同種であったとして統一したが、その際ディナモサウルスではなくティラノサウルスが有効名とされたのは、たまたま論文中で先に書かれていたのがティラノサウルスであったためである。 1900年に発見された元ディナモサウルスはイギリスのロンドン自然史博物館に、1902年に発見されたティラノサウルスの模式標本は現在、米国はペンシルベニア州ピッツバーグにあるカーネギー自然史博物館(Carnegie Museum of Natural History)にて保管されている。
なお、1917年にオズボーンはマノスポンディルスとティラノサウルスに共通する特徴を見出し、それ以後は両者が同一視されるようになった。 ただし発見されていたマノスポンディルスは一例のみで、標本はきわめて部分的であったため、オズボーン自身はそれらが同一種であると結論付けたわけではない(後述するように、この時点でもし同一種だと認められていたならば「ティラノサウルス」の代わりに「マノスポンディルス」が有効な名前になっていたはずである)。
1990年代には非常に保存状態のよいティラノサウルスの全身骨格化石が発見された。 この標本は発見者のスーザン・ヘンドリクソン(Susan Hendrickson)にちなんで「スー(Sue)」と名付けられた。 スーはオークションにより日本円にして約10億円という高額で落札されたことでも話題を呼んだ。 現在、米国イリノイ州のシカゴ市にあるフィールド自然史博物館にて展示されている。
1996年、ティラノサウルス科の恐竜のものと考えられる歯の化石が日本で初めて福井県で発見された。 白亜紀前期の地層からの発見であり、ティラノサウルス科のアジア起源説を裏付けるものとしても注目された。
2000年6月、米国サウスダコタ州のかつてマノスポンディルスが発見された場所から、ティラノサウルスの化石が発掘された。 この化石は1892年に発見された化石と同一個体のもの(掘り残し)と考えられ、マノスポンディルスとティラノサウルスが同一種であることが実際に確認されることとなったが、そこでコープの命名した「マノスポンディルス・ギガス」という名前の方に優先権があるのではないかという論争が生じた。 しかし、2000年1月1日に発効された国際動物命名規約第4版[13]に定められた規定により、動物命名法国際審議会が強権を発動して学名 Tyrannosaurus を「保全名」としたため、名称の交代が行われることはなかった。
2007年4月、ノースカロライナ州立大学などの研究チームは、ティラノサウルスの骨のタンパク質を分析した結果、遺伝子的にニワトリに近いという結果を得たと発表した。

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ティラノサウルスの類縁種について
ティラノサウルス属として現時点で広く認められているのはレックスのみである。 ただし、タルボサウルスをティラノサウルス・バタール(T. bataar)として、またダスプレトサウルスをティラノサウルス・トロスス(T. torosus)としてティラノサウルス属に含める主張もある。 特にモンゴルで発見されたタルボサウルスはその大きさと形態がティラノサウルス・レックスによく似ているため、亜種かティラノサウルスそのものではないかとも言われるが、実際にはタルボサウルスのほうが前肢の比率が小さい。 古生物学関連の科学雑誌『アクタ・パレオントロジカ・ポロニカ(Acta Palaeontologica Polonica)』の記事によれば、フィリップ・カリー(Philip J. Currie)、ジュン・フルム(Jrn H. Hurum)、カロル・サバト(Karol Sabath)は、系統解析をもとにタルボサウルスとティラノサウルスは別属と考えるべきであるとしている。 ただし、この差異は生息していた環境の違いによるものであって両者は同属であるという説も根強く、決着は未だ付いていない。 現在のところ、ダスプレトサウルスとタルボサウルスは比較的近年発見されたナノティラヌスと共にティラノサウルス亜科に分類されている。 なお、ティラノサウルス科には他にアルバートサウルスやゴルゴサウルスが属している。

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生態に関する研究
姿勢
ティラノサウルスの姿勢は、当初はいわゆる「ゴジラ型」(カンガルーが2足で立ち上がったときの形)と考えられていたが、生体力学的研究の結果、尻尾を地面に付けず、体をほぼ水平に延ばした姿勢であったとされるようになった。 尻尾は体重の支えとはならないが、体のバランスをとるための重要な役割(姿勢制御や動作制御)を担ったと推測されている。
感覚
脳の嗅球が非常に発達しており、嗅覚が非常に優れていたと考えられる。 またティラノサウルスは立体視ができる数少ない恐竜であり、視神経はとても太いと推測され、対象までの距離を正確に判断できたと考えられている。 加えて、非常に発達した三半規管を具えていたとされ、これは狙いを定めた獲物に向けて頭や眼を固定するための姿勢制御に役立っていたと見られている。
体温・羽毛
ティラノサウルスが鳥類のような恒温動物であったか、一般的な爬虫類と同じく変温動物であったかについて、決定的な結論は出ていない(恐竜#恒温動物説も参照)。 ただし、彼らは羽毛恐竜として知られるコエルロサウルス類の一種で、鳥類とも比較的近縁であることから恒温動物であったとの見方も有力になっている。 羽毛があったか否かについては1990年代中頃から議論の的となっている。 ティラノサウルス上科の原始的な種(ディロング)に羽毛の痕跡が発見されていることから、最近では、少なくとも幼体には羽毛が生えていたのではないかと考えられるようになってきている(この説では、体の大きさで体温を保てるようになる成体は羽毛を持たない)。
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